かねてより予約してあった「舞台版ドラえもん」を観に、池袋は東京芸術劇場まで出かけてきました。

現地到着は開場直前の午前11時前。会場である中ホール前には既にそこそこの人だかりが…やはり題材が題材だけに親子連れが多かったですね。でも、中には私のような好事家(と言っていいものか)らしき人もちらほらと。昼間の公演だったせいか、いかにも演劇ファンと言うような感じのお客さんはあまり見ませんでしたが…やはり天下の「ドラえもん」ですからね、そうはいっても老若男女問わずですよ。それが真っ当な事だと思う。
で、開場。パンフレットを購入してすぐに自分の指定席へ行ったのだが、これはちと失敗だった。
なんでかって言いますと、パンフレットは劇場内でも出演者の方が販売して歩いていたんですね。どうせならそういった人たちから買いたかったかな〜とも。また、上演までの30分間は、エキストラ出演者たちによる主題歌の即興演奏がなされたりと、落ち着いた雰囲気ではなかったものの「来場した人々を最初から最後まで楽しませよう」という姿勢が見て取れ、非常に好印象でした。
ここからは作品についての感想。一口に言えば「これだけのものをよく作ったな」という印象でした。
とにかく、原作――というかアニメ映画版に忠実な作りになっており、ストーリーはもちろん、シチュエーションやセリフ回し、演出の一つ一つに至るまで完全コピーのなされた舞台となっていました。これの良し悪しについては後述させていただきますが、かつて映画館でアニメ版を見た自分のような世代にとっては、「あの場面をこういう演出で再現したか!」という“目からうろこ”の感覚を味わう事が出来たのではないかと思います。
出演者は軒並みハマり役だったかと。着ぐるみで表現されたドラえもんはさすがに無理があったものの、いずれも原作のイメージを損なわない…どころか漫画の中から飛び出てきたかのような鮮烈な印象を残してくれました。坂本真(のび太役)も良かったが、特にすほうれいこ(しずか役)、小林顕作(スネ夫役)の両名は抜群に素晴らしく、劇中では特に目立った活躍がないにもかかわらず「これだよ、これ」と思わずうなってしまうほどのハマり方だったのではないかと。脇知弘(ジャイアン役)はあまりにもそのまんますぎでしたが(笑。
また、脇を固める出演者も光っており、私個人としては平野勲人(チッポの父役)、澤田育子(のび太の母役)が特に目を引きましたね。後者はTVドラマなどでもおなじみの役者さんですが(かの「セクシーボイスアンドロボ」にも出演)前者は初めて知りました。よく通る低めの声がものすごく素敵な、同じ男から見ても惚れ惚れとするような男優さんでありました(パンフレットの紹介を読む限りでは舞台メインの役者さんのようですね)。
演出方法については賛否両論ありそうな感じかなぁ。場面転換や乗り物の表現には、黒子や書割を使ったりという、わりと“古典的な手法”がとられていたのですが、あれを安っぽい、手抜きだと撮ってしまうとこの舞台はちとつらいのではないかと思う。特に、「ドラえもん」といえば欠かすことのできないタケコプターでの飛行シーンなどは、一部は役者さん自らがワイヤーアクションを駆使して飛ぶのであるが、大半は“棒の先につけた小さな人形を動かす”という随分と割り切った記号的演出で処理されていました。ああいうのをユーモアとして楽しめるかどうかですな(私は受け入れられた方です)。
しかし、そんな安っぽい演出ばかりではないのがこの舞台の醍醐味。中でも、透過スクリーンを使用した“映像による演出”は随所で効果的に使われ、舞台演劇と映画との不思議な融合感を味わう事ができました。
惜しむらくは――クライマックスシーンにおいて、その映像が多用されまくったため(惑星間を“星の船”で移動するシーンなどは、アニメ映画の映像をそのまま使用)、「あれ、これじゃあわざわざ舞台演劇でやる意味がないじゃない」とも思ってしまった事。これは先述したように「アニメ映画版の完全コピー」を目指したが故にそうせざるを得なかった弊害と言えるでしょう。私は嫌いな手法じゃないんだけど、ちょっと意地の悪い人があの一連のシーンを見たら、「な〜んだ」と言ってしまうかもしれませんね。
せっかくなので私もちと意地の悪い意見を書かせてもらうと、終盤におけるコックローチ団との戦いのシーンが、まるで遊園地におけるヒーローショーのようだったのが残念無念。客席側からあらわれる敵兵士や、凝った作りの空気砲、挿入歌など・・・色々と工夫は凝らしてあったんだけれども、それゆえにごった煮感が強くなり、「ああ、こういうのは作り慣れていないんだな〜」と思ってしまいました。全体的にハイテンポだったから、中には、クライマックスに向けての流れを理解できなかった子供の観客も多かったんじゃなかろうか…。
音楽面では、森雪之丞氏の手がけた主題歌「ハッピーディズ・ハッピー」が最高に素晴らしく、あれ単体でCDが欲しいぐらい…。この舞台は、すでにDVDの発売が決定しているから買ってみるのも一興か。収録されるのは東京公演のそれということで、今日の客席にはカメラが大量に並んでいました。あれはまさかとは思うが今日だけってことはないでしょうなあ。東京での公演がなされている間は、毎回でないにせよ収録はなされるんでしょうし(で、最終的な編集がなされると)。

公演終了後、アンケートを書き終えて外に出てみたら、な! なんと! 演出を担当された鴻上尚史先生がおられるではありませんか! 何人かのファンの方たちとあいさつを交わされており、私も握手していただきました。さすがにサインは×だったのですが、これはまあしょうがない。あれだけの規模の人数のいる所で一人にサインなんて始めたら、それこそキリがなくなっちゃうものね。
それにしても…。演出家自らが公演後に姿を見せてお客と話をするなんて…これが感激の、もとい観劇っていうものなのか。普段は舞台演劇などは観に行かない自分からすると、なんだかとても不思議な感覚ではありますが、それ以上に感動しました。役者さんや演出家を肌で感じられるという、演劇とは本当に素晴らしいものですね。これを機に、もっと色々と目を向けてみようかと思います。でも、観劇ってお金がかかるんだよなぁ〜(笑。